ADHD児の頚椎へのカイロプラクティック的アプローチ

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ADHDや自閉症スペクトラム障害の子供へのカイロプラクティック的な対処について調べていたところ、JMPTという米国の専門誌1(2004年発行)に掲載されていたレポートが参考になると思ったので、その内容を踏まえて、ADHDに対するカイロプラクティック的アプローチの一例について紹介いたします。

【要約】
ADHDと診断された米国の5歳男児(難産で出生し、羊水を口から吸引、NICUに4日間入院したことがある)は小児科で処方されたリタリン、アデロール、ハルドールを用いた治療を3年間継続したが改善が見られなかった。その後、8週間にかけて計35回のカイロプラクティック治療を続けたところ、ストレートネックや姿勢の悪さが改善した。それに伴い、それまで見られたチック、衝動的な行動や不注意も大幅に改善された。27回目のカイロプラクティック治療の後に、小児科医がおこなったフォローアップによると、この5歳児はADHDに伴う諸症状を示さなくなったと小児科医は診断した。

目次

ADHD(注意欠加・多動性障害)とは

注意欠如・多動性障害(ADHD)は、子供たちの間で近年よく見つかるようになった障害で、現在の推定では、毎年3〜5%の割合で診断が下されています。もちろん急に障害が増えたわけではなく、障害を検出するための検査手段が確立してきた事がその理由です。

「精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-IV)」によると、ADHDの診断を下すために必要な基準が定められています。簡単に述べると、学業に不注意な間違いが多い、注意を持続できない、順序立てて行動ができない、忘れ物が多い、教室で頻繁に立ち歩く、指示に従わない、などの行動が一定以上のの強さで観察され、6ヶ月以上続いていなければなりません2。つまり、子供に一般的に見られる不注意や衝動的な行動と区別する必要があるということですね。

【注】2013年にDSM-IVはDSM-5に改定され、発達障害のカテゴリーの中に自閉症スペクトラム障害やADHDの診断基準が記載されるようになりました。

背骨のゆがみとADHDの関係

これらの症状があり、日常生活や人間関係に支障をきたす場合、ADHDと診断されることがあります。そしてこのレポートによると、背骨の構造的な異常(つまり背骨のゆがみ)や、姿勢の問題とADHDとを関連付けた分析が行われた例は他にないようです。

ADHDと診断された子供たちの特徴は、代表的なものだと「気が散りやすい」「イライラしやすい」などですが、これはカイロプラクティック的に見ると首肩周りや上位胸椎あたりに問題がありそうな感じです。胸椎のゆがみによって交感神経が絶えず刺激されている状態だったり、頚椎のゆがみのため副交感神経がずっと優位なままで注意力を維持できないケースですね。一般的に病院ではADHDに対してカウンセリングと薬物療法(リタリン、日本だとアトモキセチン(コンサータ)か?)のどちらか、もしくは組み合わせでアプローチします3

ところがこの5歳児は3年も続けた薬物療法に対する反応が薄かったため、両親がこの子をカイロプラクターの元へ連れてきたことがこのケースレポートが書かれるきっかけになりました。

5歳児の背骨の状態

当該児童の背骨をチェックしたところ、以下のような異常が見つかった:

  • 胸郭から上が腰と比べて右横に移動(後ろから見ると上半身が右に曲がっている)
  • 胸椎の後弯が強い(背中の丸まりが強い)
  • 頚椎と胸椎の大幅な可動域制限(首と背中の動きが悪い)
  • 第2胸椎から後頭骨まで、脊柱に沿って筋痙攣(つまり首肩の背骨の両脇がコリコリ)。
  • 第1頚椎と後頭骨の触診で圧痛あり(首と後頭部の境界が押されると痛い)。

X線検査の結果:

  • 頚椎のストレートネック(前弯が無い)
  • 複数のサブラクセーション(ゆがみ)
Fig1.(出典:Journal of Manipulative & Physiological Therapeutics, Volume 27, Issue 8, p525.e2)

上のX線写真はカイロプラクティック治療前に撮られた頚椎のラテラル像。通常見られる前弯が無く、逆にC2-C7間に12°の後弯が入っている。C1と水平線の角度が8°しかない。前後像を見れば頚椎のねじれや傾きといったゆがみが分かるが、その写真は無い。おそらく後頭骨と上部頚椎をつなぐ後頭下筋群が硬くなっている。

カイロプラクティック治療の経過(概略)

治療の手段としては、カイロプラクティックのCBPテクニックが用いられた。通院頻度は週5回を8週間の予定で、計35回の治療が行われた。どうやら男児の家族は転居する予定があったため、間隔をすごく詰めて通院したようです。

12回目頃からADHDの症状が改善

おそらく最初のうちは男児がおとなしく治療を受けてくれなかったのではないでしょうか?ようやく12回目(3週間目のはじめ)の治療時に、男児のADHDに伴う「ひどい」問題行動が減ってきていると、母親が述べてくれたようです。

そして17回目の来院時には、男児のチック症状が明らかに減っていると母親が述べました。

27回目のカイロプラクティック治療の後、今までリタリンを処方してくれていた小児科医を訪問し、検査の結果、ADHDに伴う問題行動が無くなったと判断され、それまで3年間継続していたリタリンの処方はもう不要であることになりました。

35回目の治療後の頚椎X線画像

Fig2.(出典:Journal of Manipulative & Physiological Therapeutics, Volume 27, Issue 8, p525.e3)

こちらが35回目のカイロプラクティック治療の後に撮られた当該男児の頚椎ラテラル像。頚椎に通常見られる前弯が見事に復活しています。C2-C7の前弯角度を測ると32°に改善。C1と水平線の角度が22°に改善。

リタリンの処方も無くなり、問題行動や不注意が減ったものの、まだカイロプラクティックの治療を継続する必要がありそうな事が書かれていましたが、男児の家族はこの時点で転居してしまいました。その後3ヶ月は電話による男児の親へのフォローアップが行われ、ADHD特有の問題行動はさらに減少したと確認して、この男児への治療は終了しました。

まとめ

このレポートの著者は、薬物療法が功をなさなかった事をふまえて、すでに文献として存在している頚椎の理想的な形や機能4を男児の頚椎に取り戻すことを目標として治療を行いました。

背骨のゆがみが神経にも悪影響を与える

まず前提として、中枢神経が筋骨格系や内蔵、内分泌など身体のあらゆる機能をコントロールしています。そしてこれも様々な文献で言及されていることですが、身体の姿勢によって脊椎や椎間板、神経根など背骨の構造物に加わる負荷がかなり変化します5。(例えば、立ったまま腰を曲げて赤ちゃんを床から抱き上げようとすると、腰にかかる負荷が直立時と比べて約5倍になったりする6。)

そして、スウェーデンの医師、ブライグが1978年に発表した実験論文7によると、悪い姿勢が脳・脳幹・脊髄・神経根に悪影響を与えることを証明しています。

悪い姿勢(つまり正常ではない姿勢)は短時間であれば特に問題になりませんが、長時間続くと、脊髄への引っ張り力や神経根への圧迫が浮腫、血流不足、低酸素状態、そして場合によって細胞死へとつながるとされています8

また、ADHD児の脳をMRIやPETスキャンで調べると被殻やもう少し広い範囲でレンズ核に異常(血流不足や細胞活動の低下)が見られるとする文献9もありますが、今回の5歳児ではそのような検査をしていないのが残念です。この5歳児の画像検査は頚椎のX線写真のみですね。ちなみに脳の被殻のあたりに異常があると身体をスムースに動かすことが出来なくなり、動きが鈍くなったり(無動)、本来すべきでない動きがでたり(多動)する障害が現れます。あるいは身体をバランスの取れた状態(正しい姿勢)に維持できなくなります。

5歳児の背骨のゆがみを直して神経の伝達がよくなった

この5歳児の姿勢は上の方でも記したとおり、上半身が右に寄った状態で、背中が丸まり、首がストレートで頭が前に出ている状態でした。この著者は最初はこのストレートネックなど悪い姿勢を物理的に直す事を目標にしたのだと思います。カイロプラクティック的に治療を継続したところ、ADHDが改善したので、この著者は改めてリサーチをおこなったようです。そして男児が難産で出生し、頚椎に牽引やひねりの力が加わっていたこと、悪い姿勢やゆがみは放置されたままADHDに対する薬物療法が3年間行われたが効果の薄かったことなどから、この男児のストレートネックや頚椎のゆがみが根本的な原因で、神経の伝達がうまくいっていなかったのではないかと推測しています。

運動神経や感覚神経が神経根などで圧迫されていれば伝達がうまくいかず、自分の身体の位置や姿勢の制御がうまく出来ないでしょうし、意識せずに身体が動くということもあるでしょう。

男児の頚椎に出生時からあった大きなゆがみが改善し、脳幹や頚部の脊髄、神経根にかかっていた圧迫が減少したため、ADHDの諸症状が消失したと思われる、と著者は結論で述べています。

ADHDの治療はまず通常の医学的治療から

通常、子供のADHDはその特徴的な行動から診断されて、カウンセリング(認知・行動療法)や、リタリンやアトモキセチンなどの処方が順に行われるので、その通常のプロトコル通りに最初は治療を進めた方が良いでしょう。場合によって療育も必要になります。その上で背骨のゆがみや姿勢の悪さなど、薬物療法やカウンセリングでは治せない、気になる症状があればカイロプラクティックの治療院などに相談してみてください。子供にしては極端に姿勢が悪すぎる場合は、背骨のチェックも考えてみましょう。

実は私の子供が二人共9才の時に発達障害で自閉症スペクトラムと診断されていて、最初は筑波大附属病院、そして今は自治医科大病院で診察をしていただいています。発達障害と診断された/かもしれないお子さんがいらっしゃる方の相談相手になれるかもしれません。お子さんの背骨をみる事もできますし、発達障害児の親はすごく疲れますのでご自分の身体のケアのためにも、もしよければ当院へご相談ください。療育やカウンセリングの効果、薬の副作用と効果などについてもお話しできますよ。


参照した文献
  1. Cervical Kyphosis Is a Possible Link to Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder
    Bastecki, Anthony V. et al.Journal of Manipulative & Physiological Therapeutics, Volume 27, Issue 8, 525
  2. Diagnostic and statistical manual of mental disorders. 4th ed.
    American Psychiatric Association, Washington (DC)2000: 86-102
  3. Attention deficit/hyperactivity disorder and methylphenidate: a review of height/weight, cardiovascular, and somatic complaint side effects.
    MD Rapport, C Moffitt – Clin Psychol Rev. 2002; 22: 1107-1131 (PubMed)
  4. Comparisons of lordotic cervical spine curvatures to a theoretical ideal model of the static sagittal cervical spine.
    DD Harrison, TJ Janik, SJ Troyanovich, B Holland – Spine, 1996 (PubMed)
  5. Biomechanics of nonacute cervical spinal cord trauma.
    M Panjabi, A White – Spine. 1988; 13: 838-842
  6. The effects of dynamic loading on the intervertebral disc.
    S Chan, SJ Ferguson, BG Ritter – Eur Spine J. 2011 Nov; 20(11): 1796–1812.
  7. Adverse biomechanical tension in the central nervous system. Analysis of cause and effect. Relief by functional neurosurgery. 
    Breig A – John Wiley and Sons, New York 1978: 14-36
  8. Pathoanatomy and pathophysiology of nerve root compression.
    B Rydevik, M D Brown, G Lundborg – Spine. 1984; 9: 7-15 (PubMed)
  9. Volumetric MRI changes in basal ganglia of children with Tourette’s syndrome.
    Singer HS, Reiss AL, Brown JE – Neurology. 1993; 43: 950-956
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