よく聞かれる質問:関節をポキポキ鳴らしても大丈夫?

関節をポキポキ鳴らす
目次

背骨や骨盤を矯正する時にも聞こえるこの音は何なのか?

さあ、この質問は患者さんからよく聞かれますね~。関節に力を加えるとポキッとかボキボキッとか、パキンという音が聞こえたりします。まずは指の関節を鳴らした時に聞こえる普通の「ポキッ」という音について説明させてください。

指の関節を鳴らした時のポキッの正体

ズバリ!これは関節の中の液に小さな「泡ができて潰れる時の音!」なのです。骨が折れたり、骨同士がぶつかって出る音ではありませんので安心してください。昔から「指を鳴らすと骨(関節)が太くなるよ」とよく言われますが、実は、半分ウソで半分本当です。

その半分ウソを確かめたいので関節の構造を見てみる

さてこちらが普通の関節の構造です。手の指の関節などがこのタイプです。

このように、骨と骨の間に空間があり、「滑液(かつえき)」というエンジンオイルの様な働きをする液体に満たされている関節を「滑膜関節」といい、指の関節や、背骨の後ろ側にある椎間関節がこうした構造になっています。滑膜関節では、骨と骨が関節で直接触れることがなく、滑液のおかげで滑るように軟骨の表面上で動いています1

よって、骨と骨がぶつからずに動くのなら、骨の表面が刺激されて骨が太くなることはありません。

関節のポキッの音の出どころ

まず普通に関節を動かしているだけでは関節が太くなることはないと分かりました。ではポキッの音はどこから出てくるのでしょう?

一番最初に、ポキッの音は「 関節の中の液に小さな泡ができて潰れる時の音!」だと書きましたが、この液体を滑液といいます。

人工滑液

滑液には陰圧(負圧・ネガティブプレッシャー:ストローで飲み物を吸うときの口の中の状態)がかかっていて2、圧力が高くなっています。圧力が高くなっていることで、滑液にはガスが溶け込んでいるのですが、このガスの正体は空気の成分と同じで、窒素と酸素、そして二酸化炭素から成っています3

指を鳴らす時は、指を曲げる方向に最大限曲げてから「グッ」と力をかけますよね。その時、指関節の甲側で関節の周りを包んでいる関節包と滑膜が伸ばされるため、通常よりも関節腔が広くなります。指を曲げて鳴らすのではなく、引っ張って鳴らす人は関節の前も後ろも滑膜や関節包が全体的に伸ばされるので、指を曲げて鳴らす人よりも関節腔が余計に広がります。

関節の隙間である関節腔の容積が大きくなると一時的に滑液の圧力が下がり、中に溶け込んでいたガス(窒素と酸素と二酸化炭素)が小さな泡となって現れます3

炭酸の泡が弾けるのとはちょっと違う

コーラの泡
開栓されたコーラの中の泡は残念ながら潰れない

これは、炭酸水のキャップを開けると1気圧になって炭酸(二酸化炭素)が泡となって現れるのと同じ現象です。開栓された炭酸水だと1気圧のままになるので、炭酸の泡が水面でプチプチ弾ける音がします。関節のポキッの音もこの弾ける音と同じだと考える人もいますが、関節は膜に包まれていて、コップに注いだ炭酸水のように大気中に開放されていないんですよね…。だからこれは関節の音とは違います。

滑液に現れた泡が潰れるときにポキッと音がする

水中のプロペラにできた泡によって作られた航跡

指をポキッと鳴らしたとき、滑液に現れた小さな泡は関節腔の容積が元に戻るつれて再び圧力がかけられて「ギュッ」と押されてつぶれていき、再び滑液中に溶け込んでいきます4。この泡がつぶれる時に音がする現象が「キャビテーション」として知られていて、船のスクリュープロペラの周りにできる泡がつぶれる現象と同じなのです。キャビテーションノイズとして知られるこの現象は、その船のスクリュープロペラ特有の騒音を発生させるので、かつては潜水艦の追尾に使われたりしていました。ちなみにスクリュープロペラにできるマイクロバブルはプロペラの回転中ずっと発生するのに対して、関節内に発生する泡はポキッの時だけです。

関節をポキッと鳴らす時の音は関節の隙間の滑液から出ていて、滑液の中で発生した泡が潰れる時の音なんですね。そして、普通にポキッと鳴らすだけでは骨の表面の骨膜に刺激がかからないため、骨が反応して太くなることもありえません

関節からポキッと音がする時、しない時

基本的に滑液の中に泡を作れるほどのガスが溶け込んでいなければポキッという音はしません。一度ポキッと鳴らした関節では、すぐには潰れずしばらく泡のまま残るガスが存在します。そのガスが再び圧力に負けて滑液に溶け込むまで15~20分ほどかかります。試しに指の関節を一度鳴らしてみてください。その後しばらく音がしないのが分かるでしょう。

また、関節を伸ばしたり曲げたり矯正する時にかける力の強さや早さも影響します。弱すぎれば滑液に泡ができるほど圧力が下がりませんし、スピードが遅いとゆっくりと関節腔が開いてゆくだけで音がしません3

そして年齢にもよりますね。若い人ほど関節腔がひろく、身体もよく動かしている事が多いので滑液もよく分泌されていて、ガスの溶け込む余地が十分にあります。その場合は関節を曲げたり伸ばしたり、矯正する時に結構大きめなポキッの音がしやすいです。高齢になるとその逆で、関節が狭くなり、動きが緩慢で滑液が十分に分泌されにくいため、ポキッの音が鳴るほど十分にガスが溶け込める容積が足らず、ポキッの音がしにくい、もしくは小さいのです。

では指を鳴らすと関節が太くなる場合というのは?

Hacking, C. Finger PIP joint septic arthritis and osteomyelitis. Case study, Radiopaedia.org. (accessed on 21 Sep 2021)

前述したように、「半分本当のケース」では指を鳴らすと太くなる場合もあります。それは、年齢を重ねるにつれ、関節の軟骨がすり減って骨同士がこすれるようになった場合です。この場合は滑液からのポキッという音よりも、ゴリゴリッとこすれるような音がします。骨同士がぶつかっていると関節炎になり、熱と腫れを伴うこともあります。そして軟骨がすり減ってくると、その分だけ関節の周りの靭帯がゆるくなって不安定になり、それに反応して骨がトゲ状に出っ張った骨棘(こつきょく)が関節の周りに形成されたりします。関節を安定させるための骨棘ができると、関節が太くなります

これが、「関節を鳴らすと関節が太くなるよ」の正体ですね。若い人が普通に関節をポキポキ鳴らして起こるものではないのでご安心を。

また、手をよく使う仕事や、テニス、ウェイトトレーニング、クライミングなどのスポーツをした後、手や腕の筋肉がこわばって固くなり、指を曲げ伸ばししようとするとポキッではなく、「パキッ」と少し高めの音がすることがあります。

この少し高めなパキッの音は、ギターの弦を弾くときのように、骨と腱がぶつかって弾かれる時の音5であり、骨の表面の突起がこすられ続けることになるため、痛覚神経が分布する骨膜が刺激されて、そこで骨が形成される可能性はあります。ただし痛いことが多いので、骨が太くなる所まで進行するのはあまりなさそうです。また、固くこわばった筋肉をストレッチなどでほぐしてあげると腱の緊張が緩和するのでパキッの音がいつの間にか消えることも多いでしょう。

例えば、ウェイトトレーニングをする人によく見られる症例として上腕二頭筋腱炎が挙げられます。これは力こぶ💪を作る筋肉の上、肩関節の前にある腱がずれて弾かれるようになってパキパキ音がしやすい痛いやつです。腱をおさえる靭帯も伸びてゆるくなっています。これも間違った筋トレのやりすぎで痛くなったと分かるので、肩の前からパキパキ音がするようになっても、しばらく安静にしていれば骨が太くなるようなことは無いでしょう。

基本的に関節を曲げ伸ばしして関節そのものが痛い場合は、関節の炎症・腫れ・変形につながりやすいため、それ以上使いすぎないようにして整形外科などを念のため受診してください。

背骨・骨盤のどこからポキッの音が出るのか?

ポキッと音がする椎間関節

以上、分かりやすいように指の関節を鳴らす時を例に挙げて説明してきましたが、背骨や骨盤を矯正(アジャスト)する時はどこからポキッと音がするのでしょう?

背骨には椎間関節という、指の関節と同じ構造をしている関節が背中側の左右にあります。指と同じということは滑膜関節で、滑液があるのでそこからポキッの音がするんですね。ちなみに前方にある椎間板から音は鳴りません

この椎間関節は頚椎・胸椎・腰椎において形や関節面の向きが違うため、指の関節の様に曲げれば簡単にポキッと音がするものではありません。普通にストレッチをしていてポキッと鳴る程度なら特に問題ありませんが、無理に首をふるようにして首を鳴らしたりしないようにしてください。

そして骨盤矯正でおもに使われる「仙腸関節」は骨盤の後ろ側にある大きな関節で、ここからもポキッの音がします。仙腸関節は動かないと言われることもありますが、靭帯でがっちり保護されているものの、実は軟骨や滑膜もあるれっきとした滑膜関節の一つです。

自分で指を鳴らすのは大丈夫でも、背骨や骨盤をポキッとされるのが苦手な方は、他にもいろいろな手段がありますので担当者に伝えてください。

関節ポキポキについてのまとめ

  • 指や背骨の関節をポキポキならしても、痛くなければ特に問題はない
  • 痛み、熱や腫れを伴う場合は病院で受診を
  • パキンパキン繰り返し鳴る場合、骨と腱がこすれている。痛ければ炎症につながる。
  • 繰り返しゴリゴリッと音や感触がする場合は軟骨がすり減った状態。
  • 滑膜関節を矯正しようとするとどうしてもポキッの音が出やすい。
  • ポキッの音を出さないように関節のゆがみを矯正したり、動きを良くすることは可能。

参照した文献

  1. Zhang JH. (2013) Artificial Synovial Fluid. In: Wang Q.J., Chung YW. (eds) Encyclopedia of Tribology. Springer, Boston, MA.
  2. A Revised Definition of Manipulation. Vernon, Howard et al. Journal of Manipulative & Physiological Therapeutics, Volume 28, Issue 1, 68 – 72
  3. ‘Cracking joints’. A bioengineering study of cavitation in the metacarpophalangeal joint. Unsworth A, Dowson D, Wright V (1971). Ann Rheum Dis. 30 (4): 348–58. doi:10.1136/ard.30.4.348
  4. Ultrasound Imaging of the Trapeziometacarpal Articular Cavity to Investigate the Presence of Intraarticular Gas Bubbles After Chiropractic Manipulation. Jones, Allan R. et al. Journal of Manipulative & Physiological Therapeutics, Volume 37, Issue 7, 476 – 484
  5.  Joint cracking and popping: understanding noises that accompany articular release. Protopapas M, Cymet T, Protapapas M. J Am Osteopath Assoc. 102 (5): 283–7.
関節をポキポキ鳴らす

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