停車中、後ろから来た車が直前で気付いて避けきれなかった追突事故
1998年の渡米したばかりの頃は安物のマウンテンバイクに乗っていましたが、カンザスシティの冬は猛烈に寒いと気づいて購入したのがこの赤いシボレー・キャバリアーでした。あまり故障もせずによく走ってくれた中古車でしたが、2001年頃の冬に後ろから思いっきりぶつけられてムチウチになった時の事を記しておきます。
93年式キャバリアーの最後
アメリカの寒い地域では冬になると、凍結防止に塩化カルシウムを大量に散布するので車がすぐに白っぽく汚れてしまう。この日は洗車をしようと思い、片道2車線のワーナルロードの左車線でウィンカーを出して停止していました。
場所はここ。向かい側にいつも使っていたCAR WASHがある。危ない所だとは知っていたので、すぐに左折できればよかったものの、この時は対向車線の車がなかなか途切れず停車したままでした。バックミラーでチラチラ後ろをチェックしていると、トラックが車線変更して私の車をよけ、トラックの後ろにいたトヨタのハリアーがそのまま突っ込んでくるのが見えた。ハリアーも直前で私の車に気付いたようでしたが、時速約30マイル(時速50キロ)で直前にハンドルを切って避けようとしたもののよけきれず、私の車の右後ろにぶつかった感じでしたね。
私も前方へ急発進すれば衝突は避けられたかもしれませんが、時速50キロだと一瞬の事過ぎて反応できなかったのです。マニュアル車だし。そして突っ込まれるとやはり左斜め前方へ動いてしまった。この時はたまたま大型トラックが対向車にいなかったので助かった…。
ぶつけられた瞬間は身構えていたので両腕を伸ばしてハンドルを握り、後頭部と背中をヘッドレストと背もたれに押し付けていた。これでひどいムチウチにはならなくて済んだと思いますが、それなりに速度の出ている2トン近い重さの車に突っ込まれるとやはり首に衝撃がきましたね~。ズドーンって。
衝突直後は頭がボーッとしたものの、クラッチを切った状態で左前へ惰性で動きつつ、エンストしないように洗車場の南隣の駐車場へ何とか入れられた。この写真は後で自宅アパート裏の駐車場で撮ったもの。自走は可能でした。燃料系や排気系も問題なし。しかしシャシーの下を覗くとフレーム?が歪んでいました。
事故の相手は17~8歳の高校生で、やはり気づくのが遅れたと言っていました。父親が弁護士だったらしく、同姓の弁護士から送られてきた小切手4,000ドル(だったっけ?)で後日トヨタの初代アヴァロン(中古車)に買い替えました。盗難防止装置が故障していたので安くなっていた。
アバロンはアメリカ国内、ケンタッキーで製造しているトヨタ車で、クラウンよりもサイズが大きい3リッター車。日本に輸入されたアバロンやプロナード(2代目だけ別名)は日本でもたま~に見かけます。このアバロンは日本に帰国する時、Craigslistに載せたら即3,300ドルで売れました(笑)。
事故後しばらくしてから現れたむち打ち症
事故の直後は特に痛みやしびれなどの症状はありませんでした。ところが翌日だったか2日後だったか、朝起きると急に頭痛と首の痛みがあり、立ちくらみがしたのを覚えています。やはりあのズドーンの時、首肩周りの軟組織に損傷があったのでしょうね。
事故直後に痛みを感じない理由
こうした事故や怪我の直後、血液中のアドレナリンレベルは急上昇し、闘争/逃走反応(Fight or Flight Response)を引き起こします。すなわち、心拍数の上昇、瞳孔の拡大、血圧上昇など、緊急時に身体を動かすために必要な反応で、痛みも感じにくくなります。
寝起きに痛みが強い理由
急に衝撃を受けて傷ついた靭帯や筋肉などの組織にはただちに自然治癒のメカニズムとしての炎症が起こり、アドレナリン分泌が減少するにつれて痛みが強くなってきます。寝起きに痛みを強く感じたのは、炎症が起こっている損傷部位に頭の重さの負荷が急にかかったせいですね。捻挫した足首に急に体重をかけたりひねったりするのと同じ事です。
交通事故のむち打ち症に伴うめまい・立ちくらみ
そして、交通事故のムチウチ症としてめまいや立ちくらみを訴える人の割合は85%を超えるそうです1。このめまいや立ちくらみの原因として、頚椎の動脈の一時的な圧迫、脳幹の振盪(しんとう)が内耳の血流不足もしくは出血を起こしたためだとする研究論文2もありますが、事故の衝撃で脊髄液が漏れている可能性を挙げる研究者もいます3。私の場合はそこまでひどくなかったと思うのですがどうでしょう?血圧は何度か測りましたが、事故前と比べて特に大きな変化はありませんでした。内耳の前庭あたりに軽い損傷があって、良性頭位めまい症の軽いものがあったかもしれません。どっちにせよ、確認のしようがありませんでした。また、立ちくらみがあったのはほんの1~2回程度でした。
むち打ちの治療にカイロプラクティックへ
交通事故によるムチウチ症はカイロプラクティックが得意とする分野であり、在学中だったクリーブランド・カイロプラクティックカレッジ内のクリニックで治療を受けてもよかったのですが、実際の治療現場でどんな事をするのか興味があったので、カンザスシティのAll Star Chiropractic へ治療のため予約を取って訪問してみました。今でもオールスターカイロプラクティックは存在しているようですが、別のドクターが2009年にクリニックごと買い取って後を継いだらしく、当時のドクターやスタッフさんはもういないようです。場所もかなり南の方に移転してしまいました。
事故後の頚椎のゆがみ
当時外部のクリニックで撮影したX線写真は当然手元に無いので、似ている写真を見つけて購入してきました。ラテラル像がこんな感じ。大学のクリニックで撮影した過去の頚椎レントゲン写真と違い、C4~C6のあたりの後弯と回旋、傾きのゆがみがひどくなっていました。確かC2も右の横突起が後ろに来ていて圧痛がひどく、リスティングがPLSになっていたはずです。
車が後ろから衝突してきたケースでも、今回のように相手の車が右ハンドルを切りながら右後部を弾くように衝突した場合は、ぶつけられた側の頭が急に左を向くのと同じ事になります。後頭部をヘッドレストに押し付けていて頭が動かなかった場合は、その代償に頚椎に衝撃が伝わります。ビリヤードの玉の右側を突いた時の動きをイメージすると分かりやすいかもですね。
その直後、反動で逆方向に力が加わり、左回旋した頚椎が右に回旋して戻り、C2,C5あたりの右横突起が強く後ろに出っ張った状態になったのだと思います。この反動が「ムチウチ」と呼ばれる所以で、男性の6~7kgある頭の重さを支える不安定な頚椎周辺の軟部組織(筋肉・靭帯・腱・血管・神経)に損傷を与えます。真後ろから直線的にぶつけられた場合は「ムチウチ」の動きが首の前後の動き(屈曲・伸展)だけになりますが、今回のように斜め後ろから弾くようにぶつけられた場合は、回旋と側屈の動きが加わって症状がキツくなります。
真横からぶつけられた場合、被害者が相手の車に気付いて頭が真横を向いていた場合はもっと症状がひどくなります。
このレントゲン写真も当時の私の首の状態にそっくりだと思う。C2、C5、C6の棘突起が左に回旋した状態。そしてX印が特に圧痛の強かった所です。
当時の治療の手順
All Star Chiropractic での初回訪問時は、問診・X線写真撮影・触診から治療という順序で事が進みました。これはどこでも同じです。問診ではどのように車がぶつかったのか説明したり、自覚症状についての説明をしました。
レントゲン写真撮影は、AP(前後)・APOM(上部頚椎)・ラテラル(横)・オブリーク(斜め)2枚・屈曲・伸展の計7枚を撮影。2000年代初めだとデジタルX線はまだ普及する前でした。
触診では一通りの整形外科的テストや可動域のチェック、しびれの有無などを確認して記録に残し、最後に治療前の説明が行われました。特に上記2枚のX線写真のような状態についての説明や、屈曲と伸展が制限されていること、椎間孔(神経が出る孔)に問題は無いことなどの説明があり、よく納得できました。
治療は、最初に電気治療(干渉波、interferential)で筋肉の緊張をゆるめて、次に背骨のアジャストという順序でおこなわれ、最初の1週間は毎日、翌週は2日おき、その後は次第に間隔を空けて通い、トータルで27回くらい通院したと思います。治療を担当したドクターは院長ではなく、アソシエイトドクター(勤務医、カリフォルニア時代の私と同じ)が担当してくれました。背骨の矯正(アジャスト)に使われたカイロプラクティック・テクニックはディバーシファイドでしたね。私も当院で使います。
むち打ち症による症状は最初の1週間でほぼ消失し、その後は時々頭痛や首の痛みが少しぶり返すという事を繰り返しながら症状が改善していきました。筋肉の緊張が取れると可動域も改善。
骨折や脊髄液の漏出といったひどい事は私には起こらなかったので、すごくスタンダードな形式で治療がおこなわれました。
ムチウチをカイロプラクティックで治療する場合の利点
カイロプラクティックのクリニックでむち打ち症の治療を受ける場合、しっかり背骨のゆがみを調整できるのがいいところですね。アメリカでは保険も適応されます。ただしアメリカでも、病院の整形外科に行ってしまうと、超音波と電気治療のみの繰り返しで治療が終わったりします。
日本の場合は、整形外科や接骨院などで受ける治療のみ、保険による支払いが認められる事が多いですが、交通事故の被害者が強く要求すれば当院のようなカイロプラクティッククリニックでの治療費をカバーしてくれたりします。当院でもそのような前例はありますので、交通事故の被害者で、むち打ち症による首の痛みや頭痛、背骨や骨盤周りの痛みをしっかりと治したい場合は相手方保険会社と交渉してみてください。ご自分の自動車保険や火災保険などに弁護士費用をカバーする特約が付いていると、弁護士事務所が話しを進めてくれるので楽になると思います。
まとめ
- 車に乗車中、後ろからぶつけられるとムチウチ症につながりやすい。
- むち打ちで頭痛・首の痛み・めまい・腕のしびれ・背中の痛みなどが症状が出やすい。
- 整形外科や整骨院での治療は超音波や電気治療、湿布や鎮痛剤の処方のみで終わることが多い。
- カイロプラクティックでは、追突事故によって引き起こされた背骨(特に頚椎)のゆがみをしっかりと治療できる。
参照した文献
- Hinoki M. Vertigo due to whiplash injury: a neurotological approach. Acta Otolaryngol Suppl. 1985;419:9-29. (PubMed)
- Tranter RM, Graham JR. A review of the otological aspects of whiplash injury. J Forensic Leg Med. 2009 Feb;16(2):53-5. doi: 10.1016/j.jflm.2008.09.001. Epub 2008 Nov 1. (PubMed)
- Ishikawa S, Yokoyama M, Mizobuchi S, Hashimoto H, Moriyama E, Morita K. Epidural blood patch therapy for chronic whiplash-associated disorder. Anesth Analg. 2007 Sep;105(3):809-14. doi: 10.1213/01.ane.0000271922.04981.33. (PubMed)
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